10年ぶりに隣町の友達に会いたい、と祖母は私の車に乗った。住んでいるアパートは知っているからと。着いてみたら、古いアパートは立ち退き、新しい住宅が並んで建っていた。私たちが車で住宅地を行ったり来たりしていると、心配そうに一軒家からおばちゃんがのぞく。車の窓を開け、「お尋ねしたいことが・・・」と言うと、快く出てきてくれた。「Hさんってご存知ですか?」祖母が聞く。運のいいことに、そのおばちゃんは昔アパートの管理人をしていたそうだ。おばちゃんと祖母、謎解きクイズのように、Hさんのヒントを次々と出し始めた。「A棟だったかB棟だったかわかる?」「ちょっとそれは忘れちゃったな」「昔スナックのママをしていたの」「それは知らないなあ」「あのきれいな方じゃないかしら?」「そうそう、色白できれいな方よ」
祖母はいつしか助手席から乗り出して一生懸命に話している。二人はあきらめることなく長いこと考えて考えて...最後にHさんを突き止めた。
Hさんの家まではあまりに道が細く、歩いて行かなければならなかった。杖でゆっくり歩く祖母だから、きっと時間がかかるし、途中で歩けなくなってしまうかもしれない。ひとまず祖母には車で待機してもらい、私が歩いておばちゃんに着いて行き、Hさんの家を教えてもらうことになった。
おばちゃんはその家の戸をたたき、Hさんらしき方を呼んできてくれた。私が祖母の名前を名乗ると、知っている、友達だ、と。「足が悪いみたいだからそこまで出て来てあげて」とおばちゃんがHさんに言ってくれた。祖母のところまで三人で歩く。細い道を歩きながら、私は嬉しかった。
角を曲がると、祖母が車の外で杖をついて立っていた。無事、10年ぶりに祖母は友達に再会した。親切なおばちゃんのおかげで。
10年ぶりのご対面をした瞬間、祖母とHさんも嬉しそうだったけど、親切なおばちゃんもとても嬉しそうな顔をしていた。私もとてもとても嬉しかった。私と目を合わせてにっこりしたおばちゃんは、颯爽と歩いて帰っていった。ありがとう、とおばちゃんの背中に声をかけた。
祖母とHさんは最後に、「何があるかわからないけど、お互いに元気出して頑張ろうよ」と誓い合うようにして別れた。帰りの車の中、祖母は声を弾ませ、私に昔の話をしてくれた。秋の夕暮れ、車内は肌寒くなっていたけど、私の心はぽかぽかしていた。
ありがとう。会えてよかったね、おばあちゃん。